株式会社設立のメリットとデメリット|得られるものと、引き受ける負担を同じ表に並べる
メリットだけを並べた記事は判断に使えません。株式会社にすると何が得られ、代わりに何を引き受けるのかを、同じ表の左右に置いて確かめます。

この記事は、メリットだけの記事を読んで不安になった人のためのものです
株式会社の会社設立について調べると、「信用が上がる」「節税できる」「責任が限定される」といったメリットが並びます。どれも間違いではありませんが、それだけを読んで決めると、設立してから想定外の負担に驚くことになります。
この記事では、メリットとデメリットを同じ表の左右に置きます。信用が上がるのと引き換えに何が増えるのか、節税できるのと引き換えに何を払うのか。対になっている項目を並べることで、判断に使える形にします。金額は2026年9月16日時点の一次情報にもとづきます。
メリットとデメリットは、同じ制度の表と裏になっている

株式会社の会社設立で得られるものと、引き受ける負担は、多くの場合同じ仕組みの表と裏です。切り離して数えると、判断を誤ります。
たとえば、株式会社は法務局に登記されるので、商号・本店・代表者・資本金の額を誰でも確認できます。これが信用につながります。同時に、商号や本店を変えるたびに変更登記が必要で、登録免許税がかかります。
自分と会社が別人格になるので、責任が出資の範囲に区切られます。同時に、会社のお金を個人が自由に使えなくなり、使えば役員貸付金として決算書に残ります。
役員報酬として所得を切り出せるので、給与所得控除が使えます。同時に、社会保険の適用事業所になり、保険料の約半分を会社が負担します。報酬を決める期限も生まれます。

出典このセクションの出典:辻・本郷 税理士法人|メリット・デメリット総まとめ(辻・本郷 税理士法人/2026年9月16日 確認)
メリット1|登記による信用と、法人限定の取引

株式会社は法務局に登記され、商号・本店所在地・代表者・資本金の額・事業目的が登記簿に載ります。誰でも登記事項証明書を取得して確認できるため、取引相手にとっては相手を確かめる手段になります。
実務で効いてくるのは、法人としか取引しない方針の企業がある場合です。大手企業の調達、官公庁の入札、一部の業務委託では、法人格を条件にしていることがあります。株式会社の会社設立をした時点で、この入口を通れるようになります。
採用の場面でも差が出ます。求人媒体の掲載要件や、応募者の受け止め方に影響することがあります。特に新卒採用では、法人であることが前提になっている場面が多くあります。
金融機関との関係でも違いが出ます。法人名義の口座を持ち、法人として決算書を作ることで、事業の実績を数字で示しやすくなります。個人事業の確定申告書でも融資は受けられますが、事業と家計が同じ口座に混ざっていると説明に手間がかかります。株式会社の会社設立は、この説明のしやすさを手に入れることでもあります。
ただし過大評価は禁物です。設立したばかりの株式会社に取引実績はなく、資本金が極端に少なければその数字も見られます。信用の器ができるだけで、中身は自分で入れるという理解が正確です。
出典このセクションの出典:マネーフォワード|株式会社を設立するメリット3つ(マネーフォワード/2026年9月16日 確認)
メリット2|所得の出し方を選べることと、経費の範囲

個人事業では、利益がそのまま自分の所得になります。株式会社では、自分に役員報酬を支払い、残りが会社の利益になります。所得を二か所に分けられることで、税率の適用のされ方が変わります。
役員報酬は給与所得として扱われるため、給与所得控除が使えます。個人事業の青色申告特別控除とは別の枠組みの控除です。所得が一定以上になると、この差が効いてきます。
法人だけの仕組みも使えます。役員退職金の設計、社宅、出張日当、生命保険の扱いなど、個人事業にはない選択肢があります。ただしどれも実態と社内規程が前提で、形だけ整えても税務上は認められません。
赤字の繰越期間も長くなります。青色申告の欠損金の繰越控除は、個人事業で3年、法人で10年です。軌道に乗るまで時間がかかる事業では、この差が意味を持ちます。
家族への給与の扱いも変わります。個人事業では青色事業専従者給与として届出をした範囲でしか経費になりませんが、株式会社では役員や従業員として給与を支払えます。実態が伴っていれば損金になり、世帯全体で所得を分散できます。ただし勤務実態のない支給は税務上否認されるため、業務内容と勤務時間の記録は残してください。
決算期を選べることも実務上の利点です。個人事業は12月31日で固定ですが、株式会社は事業年度を定款で自由に定められます。繁忙期を避けた決算期にすれば、作業が重なりません。会社設立の時点で決める項目です。
出典このセクションの出典:辻・本郷 税理士法人|会社設立時の資本金はいくらが適切か(辻・本郷 税理士法人/2026年9月16日 確認)
メリット3|有限責任と、事業の継続性

株式会社の株主は、出資した額を限度に責任を負います。会社が債務を返せなくなっても、株主が個人の財産で穴埋めする義務は原則としてありません。個人事業の無限責任との大きな違いです。
ただし、金融機関からの借入れで代表者が連帯保証をすれば、その債務については個人が責任を負います。有限責任が効くのは、保証を付けていない債務についてです。保証の有無で分けて考える必要があります。
事業の継続性という面もあります。個人事業は事業主が亡くなれば終わりますが、株式会社は法人として存続し、株式が相続されます。取引先との契約も会社が当事者のままなので、巻き直しが不要です。
会社が続くということは、事業の名前や信用も続くということです。個人事業では事業主の名前と事業が一体でしたが、株式会社では商号が会社のものになります。代表者が交代しても、取引先から見た会社は同じままです。会社設立とは、事業を自分の人格から切り離す作業でもあります。
事業を人に譲るときも、株式を譲渡すれば会社ごと引き継げます。個人事業のように、屋号・契約・許認可を個別に移す必要がありません。会社設立の時点で全株式に譲渡制限を付けておけば、意図しない相手への流出も防げます。
出典このセクションの出典:デイライト法律事務所|株式会社とは?メリット・デメリットと設立の手続き(デイライト法律事務所/2026年9月16日 確認)
デメリット1|設立費用と、毎年かかる固定費

株式会社の会社設立には、法定費用だけで16万7千円程度かかります。電子定款を使い、資本金100万円未満で定款認証の軽減要件を満たした場合の下限です。紙の定款なら収入印紙4万円が加わります。
毎年かかるものとして、法人住民税の均等割があります。赤字でもかかる固定の税で、資本金等の額と従業員数で決まります。資本金1,000万円以下・従業員50人以下であれば、標準的な自治体で年7万円程度が目安です。
税理士の顧問料も実質的な固定費になります。法人の決算申告は個人の確定申告より複雑で、自分で完結させるのは容易ではありません。依頼範囲によりますが、年間で数十万円を見込んでおく必要があります。
やめるときにも費用がかかります。個人事業は廃業届で終わりますが、株式会社は解散と清算の手続が必要で、登記も複数回かかります。入るのも出るのもお金がかかるという点は、会社設立の前に知っておいてください。

出典このセクションの出典:弥生|会社設立費用はいくら?株式会社・合同会社の法人設立費用を比較解説(弥生株式会社/2026年9月16日 確認)
デメリット2|社会保険と、お金の自由度の低下

株式会社は、役員報酬を支払うなら健康保険と厚生年金保険の適用事業所になります。従業員がいなくても同じです。保険料は会社と本人が半分ずつ負担し、一人の会社では実質的に全額を自分で払う形になります。
将来の年金額は増えますが、目先の資金繰りには効きます。国民健康保険と国民年金だった人にとっては、月々の負担が大きく変わることがあります。会社設立の前に、役員報酬の額と保険料の概算を出しておいてください。
お金の自由度も下がります。会社の口座から個人がお金を取れば、役員貸付金として決算書の資産に計上され、返済するまで残ります。金額が大きくなると、金融機関の審査で説明を求められます。
役員報酬は期中に自由に変えられません。会社設立から3か月以内に決め、以後は毎月同額を支払う必要があります。売上が伸びたからといって途中で増やすと、増額分が損金に算入できなくなります。収入の調整が効かないという制約です。
出典このセクションの出典:日本年金機構|適用事業所と被保険者(日本年金機構/2026年9月16日 確認)
デメリット3|毎年の手続と、記録を残す義務

株式会社には、決算公告の義務があります。定時株主総会の後に、貸借対照表またはその要旨を官報・日刊新聞紙・電子公告のいずれかで公告します。資本金の額や会社の規模にかかわらず義務があります。
役員の任期満了ごとに重任登記も必要です。任期は原則2年、非公開会社なら定款で最長10年まで伸ばせます。10年にすれば回数は減りますが、10年後に忘れるリスクが生まれます。12年間登記がないとみなし解散の対象になり得ます。
定時株主総会も毎事業年度必要で、議事録を作成して本店に備え置きます。一人の株式会社でも同じです。役員報酬の決議も株主総会で行い、その記録が税務上の裏づけになります。
帳簿の付け方も厳密になります。法人は複式簿記による記帳が前提で、決算では貸借対照表と損益計算書、株主資本等変動計算書などを作成します。個人事業の青色申告でも複式簿記は求められますが、法人ではさらに別表の作成が加わります。会社設立の後、最初の決算で戸惑う人が多い部分です。
これらはどれも難しい手続ではありませんが、忘れると後で困る種類のものです。個人事業では考える必要がなかった作業が、会社設立の後には毎年ついてまわります。誰が期限を管理するのかを決めておいてください。
出典このセクションの出典:鮎澤パートナーズ|決算公告の義務と方法(鮎澤パートナーズ/2026年9月16日 確認)
メリットとデメリットについてよく聞かれること

- 節税のために株式会社を作るのは正しいですか?
- 所得の水準しだいです。役員報酬による所得の分散と給与所得控除で税負担が下がる一方、社会保険料の会社負担、法人住民税の均等割、税理士の顧問料が増えます。会社設立の費用も含めて、差し引きで有利になる規模かを確認してください。
- デメリットを減らす設計はありますか?
- あります。資本金を1,000万円未満にして消費税の免税期間を取る、役員の任期を伸ばして重任登記の回数を減らす、公告方法を電子公告にして掲載費用をなくす。いずれも会社設立時の定款で決める項目です。
- 設立してから個人事業に戻せますか?
- 株式会社を解散・清算して個人事業を再開することは可能ですが、解散と清算の手続に時間と費用がかかります。実質的には元に戻す作業ではなく、一度たたんで別に始める作業になります。
- 合同会社ならデメリットは小さくなりますか?
- 設立費用は安く、決算公告と役員任期の義務もありません。ただし株式による資金調達や事業承継の選択肢は狭くなります。資本金の扱いや税率に差はないため、どの負担を重く見るかで選んでください。
質問に共通しているのは、メリットとデメリットを別々に評価しようとしている点です。株式会社の会社設立で得られるものと引き受ける負担は、多くが同じ制度の表と裏になっています。片方だけを取ることはできません。
出典このセクションの出典:小谷野税理士法人|個人事業主の法人成りに最適なタイミング3つ(小谷野税理士法人/2026年9月16日 確認)
まとめ|表と裏を同じ表に置いて、自分の数字で差し引きする

株式会社の会社設立で得られるのは、登記による信用、所得の出し方の選択肢、有限責任、経費の範囲の広がり、そして資金調達と事業承継の選択肢です。
引き受けるのは、設立費用16万7千円、毎年の均等割7万円程度、社会保険料の会社負担、税理士の顧問料、決算公告と重任登記、そして会社のお金を自由に使えないという制約です。
| 得られるもの | 引き受ける負担 |
|---|---|
| 登記による信用、法人限定の取引に入れる | 変更のたびの登記費用、決算公告の義務 |
| 役員報酬として所得を分けられる | 社会保険料の会社負担、報酬変更の制約 |
| 出資の範囲での有限責任 | 会社のお金を個人が使えない(役員貸付金) |
| 退職金・社宅などの設計、決算期の選択 | 決算申告の複雑さ、顧問料 |
| 株式による資金調達・事業承継 | 役員任期の管理、重任登記 |
| 赤字の繰越が10年 | 赤字でもかかる均等割 |
この表の左右を、自分の事業の規模で比べてください。所得が小さいうちは右側が重く、一定の規模を超えると左側が重くなります。取引先の要請や採用の必要がある場合は、税負担と無関係に左側を選ぶ判断もあります。
デメリットのいくつかは、会社設立時の設計で小さくできます。資本金を1,000万円未満にする、役員の任期を検討する、公告方法を電子公告にする。定款を書く前に決めておく価値のある項目です。
なお、この記事の金額は2026年9月16日時点の公開情報にもとづきます。税率も社会保険料率も毎年見直されるため、実際の判断にあたっては国税庁・日本年金機構・お住まいの自治体の最新情報をご確認ください。損得の比較は個別性が高い領域です。税理士など、その業務を扱える専門家にご相談ください。
出典このセクションの出典:辻・本郷 税理士法人|メリット・デメリット総まとめ(辻・本郷 税理士法人/2026年9月16日 確認)
表を見たら、自分の数字で差し引きしてください
メリットとデメリットは、多くの場合、同じ制度の表と裏です。登記されるから信用が上がり、登記されるから変更のたびに費用がかかる。責任が区切られるから安心で、区切られるから会社のお金を自由に使えない。
だから「どちらが多いか」を数えても意味がありません。自分の事業にとって、どの項目が重いかを見てください。会社設立の費用16万7千円が重い段階なのか、法人限定の取引に入れないことのほうが重い段階なのか。判断に迷う場合は、資本金の額を含めて税理士に相談してみてください。
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